消化器内科医のひまつぶし

医療関係を中心に?日々起こった事、思った事書いていこうかと思います。

【雑記】優しい笑顔 その15 闘病編【5日目 前編】

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いて行きたいと思います。

最近少しドタバタしてアップできていませんでした。すいません。

 

あと2話で終了です。

 

前回の話はコチラから

 

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話の始まりはコチラから

 

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【あらすじ】

化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
自信を取り戻した僕はもう治らない状態である事をAさんに伝えた。

そして最期の入院生活が始まった。

 

【5日目】

 

曇天に光は遮られ、その日はあまり気持ちのいい朝とは言えなかった。

とはいえ、リフレッシュできた僕は軽やかな足取りで医局についた。

 

 

そこで何気なく医局のパソコンの画面を開く。

医局のパソコンからでも患者さんのデータは見れるようになっている。

 

 

普段は病棟にすぐに向かうのだがこの日は違った。

これが虫の知らせというやつなのだろう…

 

 

自分で予約を入れたわけでもないのになぜかAさんの「検査結果」のボタンを押した。

 

 

今日の日付で検査結果が表れる。

とは言ってもまだ9時なので一部の結果だけが表示されている。

 

 

(血液検査がオーダーされている?)

(…何かあったのか?)

 

 

立ち込める不安を押し殺すようにN病棟へ急いだ。

 

 

N病棟につくとそこには上司がいた。

 

 

上「あ、先生。おはよう。今日家族さんが来られる日なんやね。僕話すよ。」

僕「え?あ、はい…」

 

 

何が起こっているのかわからないが、

確実に良くはないであろう雰囲気だけは感じ取った。

 

 

僕「あの…何かありましたか?」

上「うん、昨日の昼くらいから何やけど…」

 

上「痛みが強くなってきて全く抑え込めなくなったんよ。」

 

 

上「…なので麻薬導入したんやわ。」

 

僕「麻薬ですか…」

 

 

【癌性疼痛と医療麻薬】

癌が増悪してくると様々な原因から痛み(疼痛)を感じてきます。

現在は極力疼痛を感じないようにコントロールしていく事が良いとされており、

そのためにWHOの定める疼痛ラダーに従って投薬を決定します。

 

と言っても難しい話ではなく、

STEP1はロキソニンに代表されるNSAIDsという種類の薬剤を使用して、

 

それでも駄目ならSTEP3の医療麻薬を使用します。(モルヒネとかです。)

基本麻薬は疼痛に応じて使用する分には依存性は低いですので、いわゆる犯罪の麻薬とは一線を画します。

 

ちなみにSTEP2に準麻薬(トラマールなど)という設定もありますが、すぐに麻薬に移行することが多い事や、麻薬をすぐに準備できない国なども考慮して作られたSTEPなので飛ばしてもよいことになっています。

 

後は症状に応じてその他の薬剤も並行して使用し疼痛を管理していきます。

 

ただし麻薬を使用すると必ず起こる副作用があります。

それは嘔気、眠気、便秘です。

 

 

 

僕「先生、イレウスでしたけど麻薬は大丈夫なんですか?」

 

上「その通りやね。麻薬のせいで腸の動きはさらに悪くなる…」

上「もう、飲水はしない方がいいかな。予後も恐らくかなり厳しいかな…」

 

僕「え…どれくらいなんですか?」

 

上「うーん…でも週明けまでもたないかもしれないね。」

 

 

今日は金曜日…あと2日、3日しかもたない…

 

 

上「家族にもこの話はしないといけないから…僕が話すね。」

 

僕「…よろしくお願いします。」

 

 

予想だにしない展開の速さに気持ちが追い付かない。

一昨日のあの朗報は何だったんだろう。

 

それを僕は大喜びして、Aさんにその喜びを伝播させてしまった。

ぬか喜びさせただけじゃないか…

 

自責の念が胸の内から広がる。

 

 

上「しょうがないよ…しんどかったら後やっとくし先生は他の患者さん診てくれてていいよ。」

 

残念そうにはにかみながら話す上司の気遣いの言葉が胸に刺さる。

 

きっと、何度もこのような思いをしてきたのだろう。

 

その口調には優しさと少しの冷たさ、そして必ず前に進む凄味を感じた。

 

 

「責任を持って立つ事はこういうことだ」

 

 

そう言われているような気がした。

 

 

 

【出来る事を出来る限りやる】

 

この言葉を思い出し、自分の気持ちを奮い起こす。

 

 

闘っているのはAさんだ。

僕が逃げるわけにはいかない。

 

僕「…ありがとうございます。でも大丈夫です。Aさんに会ってきます。」

 

 

そういってAさんの部屋へ向かった…

 

 

 

一旦ここで終了させていただきます。

最後まで読んで頂き有難うございました!