【研修医時代】心臓血管外科編 その6
皆様お疲れ様です。
年末年始はドタバタし過ぎて一旦休止しておりました。
前回の続きを書いていきたいと思います。
前回の話はコチラから
【あらすじ】
胸部外科での研修が始まり、初めてのカンファレンスで散々だった僕。
気持ちを入れ替え勉強に励んだ。そしてついに手術の日がやってきた。
手術当日。
集合時間は7時半であった。
寝坊してはいけないと6時頃に目覚ましをかけたが、緊張からか目覚ましよりも早く起きてしまった。
もう一度寝ようにも、目が冴えて眠れないであろう事を悟った僕はベランダに出た。
町はまだ眠っていて静けさに包まれている。
時がゆっくりと流れる感覚を味わいながら、うっすらと昇り始める朝日を眺めた。
(…よし!)
準備を済ませ病院へと向かった。
中森先生とは手術室で待ち合わせている。
手術室に入る前にまずは手術着に着替える必要がある。
更衣室への扉はロックされておりIDカードを認証する必要がある。
慣れない手つきでIDカードをかざし中へと入った。
心臓血管外科の手術は準備が大変なので、他の手術よりも1時間程早く準備が始まる。本来であれば麻酔科の仕事であるが、研修医の僕にとっては全てが勉強なので見学も兼ねて早く出勤しようと前日に中森先生から助言を受けていた。
更衣室は数人の麻酔科の先生以外は誰もおらず静まり返っていた。
いやが応でも高まる緊張を抱えながら、急いで着替え手術室へと向かった。
先に出た麻酔科の先生の後をつけ、手術室に入る前には必ずキャップとマスクをつけないといけない事を知り慌てて探して入室した。
大学病院は何部屋も手術室があり各科が並列で手術を行う。
心臓血管外科は5番6番で手術する事が多く、今回は6番であった。
手術室に入ると中森先生が立っていた。
中森「おぅ、先生おはよう。ちゃんと来れたな。」
僕「おはようございます!よろしくお願いします!」
中森「よろしく。って言っても俺も見学みたいなもんやけどな。」
【手術】
最近ではドラマでもよく見るのでご存知の方も多いと思いますが、
手術(執刀と言う意味で)は基本3-4人で行います。
【術者(執刀医)】と術者の前に立つ【第一助手】(前立ちと言われたりします)
そしてメスなどの器具を渡す【看護師さん】(器械出しと言われたりします)
がメインとなり、後は術者の横に立つ【第二助手】がつきます。
もちろんこれに加えて、麻酔科医、技師、看護師がつくので手術自体は大人数で行います。
今回、中森先生は第二助手、僕は見学者として第一助手の横に立つ事になっていました。
中森「ところで、手術表の見方わかった?」
僕「??…なんですか、それ?」
中森「やっぱり知らんかったか、ドアのところに表あるから見てみ。」
僕「はい!」
急いでドアにある表を確認する。
そこには、その日の各部屋の術式、予定時間、術者、担当麻酔科医等が書かれていた。
中森「次からそれ見て部屋も確認しーや。まぁ来たらわかるけどな(笑)」
少し慣れてきたためか、中森先生もよく話しかけてくれるようになった。
何となく嬉しくなりながら、6番の欄を眺めていた。
僕「…!先生、これ…」
中森「ん?どうしたん?」
僕「9時から17時って書いてますけど?」
中森「あぁ、これな。まぁ長くても5時間くらいで終わるよ。なんかあった時用に長めにとってんねん。」
僕「5時間…ですか。」
すぐに終わる訳ない事は分かっていたが、改めて時間を聞くと少し不安が募る。
中森「初めてやときついかも知れんな。でも多分この2ヶ月の中では一番楽な方やで。」
僕「!」
聞かなければ良かったと心底思いながら、気持ちを切り替える。
まだ慣れない空気の中、周りを見渡す。
麻酔科の先生は点滴用ポンプ(精密に点滴するための機械)を5つくらい並べて薬をセットしている。その横には大きな麻酔の機械があり、気管挿管用の用意も並んでいる。
技師さん(臨床工学士)は人工心肺をチェックしている。
人工心肺は心臓の血流を機械に通し、酸素を含ませてから体内に戻す機械であり、心臓を手術する際には欠かせない機械だ。
ここに空気が入らないよう(血管内に空気が入るとそれにより血管が詰まってしまう事があります)入念に機械のつなぎ目部分をたたきながら確認している。
看護師さんは慣れた手つきで手術器具の確認を行っている。色々と話しているがさっぱり分からない。
場違いな空気を纏っている事を感じながらも、この空間で2ヶ月戦う事を心に誓う。
そうこうしているうちに患者さんが入室してきた。
麻酔科の先生が簡単な説明を行った後、素早い手つきで点滴をとり、麻酔をかけ、気管に管を入れる。
その間に無菌状態となるべく、術者は手洗いを行い、ガウン、手袋をはめ準備を整える。
その流れを頭の中で再確認していた時だった。
宮田「中森も早く手洗いして来い!」
既にガウンを着て臨戦態勢となった教授が後ろに立っていた。
いつもながら突然の登場に戸惑う二人。
中森「は、はい!…おい、行くぞ!」
中森先生とともに手洗い場に急ぐのだった。
一旦ここで終了させて頂きます。
最後まで読んでいただき有難うございました!