【研修医時代】心臓血管外科編 その8
皆様お疲れ様です。
前回の続きを書いていきたいと思います。
前回の話はコチラから
【あらすじ】
いよいよ心臓の手術が始まった。その方法に驚きそして自分の甘さを再認識した僕。そんな葛藤をよそに手術は続いていくのであった。
心臓が止まった。。
人工心肺は独特の音を立てながら、一人の命を循環させている。
静寂が広がる手術室で教授の声が響く。
「重野!もっと術野拡げろ!」
「違うだろ!もっとあげろ!!」
全くついていけない僕は何を怒られているのかさえ理解できない。
目の前の拍動を止めた赤い臓器は目まぐるしい速さで切り開かれていく。
そしてついに僧帽弁が露出された。
と思った次の瞬間には切開を加え始めている。
動画を早送りで見ている時のような感覚に囚われつつ、次の展開を予測する。
(次は…)
宮田「機械弁出して!」
…予測する暇もない。
摘出した僧帽弁の代わりに機械弁を縫い付ける。
しっかりと縫い付けた後に、切り開いた心臓を閉じていく。
ここで縫い方が甘いと、心臓が破裂してしまう。
ここでもスピードは落ちることはなく、みるみるうちに心臓が元の姿を取り戻す。
これで終了…とはいかない。
続いて人工心肺からの離脱が待っている。
氷を取り除き、体温を戻す。
次の瞬間に先程までずっと怒っていた教授の声が止む。
…
…
…ピッ……ピッ…ピッ…ピッ
モニターから心音が鳴り始める、術野を除くと、先程まで眠っていた心臓が動き始めていた。
(…動いた!)
理屈では分かっているが、止まった心臓が動き始める瞬間は、命が戻って来るようであり、冷静に興奮しているような何とも言えない感情が湧き上がる。
しかしこれでもまだ安心はできない。
徐々に体内の血液循環量を増やし人工心肺から離脱していくのだが、
ここで血圧が安定しないと離脱困難となり、厳しい戦いが続く。
…
宮田「…よし!」
縫合部からの出血はなく、血圧は110/70...見事に保てている。
…離脱成功だ。
宮田「よし、じゃあ閉胸していく。」
張り詰めていた空気がようやく弛む。
先程までの怒号はどこへやら、教授は笑顔で重野先生に話しかけている。
次の瞬間、体にどっと疲れが押し寄せる。
気付けば4時間近く経過していた。
(先が思いやられるな…)
全て終え術後ICUに戻ってきたころには午後3時となっていた。
中森「お疲れさん。初めての手術はどうやった?」
僕「あんなに早いのでびっくりしました。あと...怖かったです。」
中森「失敗したらあのまま目覚めんしなぁ…まぁ無事に終わってよかった。指示出したら飯いこか。」
手術の後は何となく皆優しくなる。
いつも厳しい中森先生も、柔らかい雰囲気を纏っていた。
その後2人で遅めの昼食をとりその日は終了した。
様々な感情にとらわれながらも、ようやく一つの壁を超えた。
明日からも続く激務に募る不安を、その日は少しの自信が包んでくれ、ゆっくりと眠りについた。
ここで一旦終了します。
最後まで読んで頂きありがとうございました!