【研修医時代】心臓血管外科編 その5
皆様お疲れ様です。
年末は忘年会ドタバタしていてアップ遅れがちで申し訳ないです。
前回の続きを書いていこうと思います。
前回の話はコチラから
【あらすじ】
胸部外科での研修生活が始まった。病棟業務に慣れてきた僕に待っていたのは、患者さんの情報を皆の前で発表し検討を行うカンファレンスだった。急いで情報を集め出来る限りの準備をする僕、そしてカンファレンスが始まった。
宮田「よし、研修医くん、じゃあやってくれ!」
胸部外科の先生がずらりとテーブルに座る。
その雰囲気に圧倒されながらも、先ほど手に入れた自信を胸に話し始めた。
僕「よろしくお願いします。」
僕「明後日の手術の方ですが、Mさん、60代の男性で、今回僧房弁閉鎖不全症(MR)を指摘されております。」
僕「現病歴としましては、特に症状なく、健診にて心雑音指摘され精査の結果MRと診断。当科に紹介となりました。既往歴としましては…」
滑り出しは順調、というよりここまではカルテの記載を読むだけなので楽勝だ。
話し始めると、段々緊張もなくなり威圧感も感じる事は無くなっていた。
僕「...であり、心機能の低下傾向を認めたため僧房弁置換手術:MVRの適応と考え手術予定となっております。」
一通りは言い終わった。
初めて医局に来たとき重野先生が話していたMVRが、この手術の事だったと知ったのはついさっきであった。
たまたま、目に入ったカルテ記載にMVRの文字を見つけ、少しでも勉強しているように見せようとわざわざ使用した。
(運もあるしこれは何とかなりそうだ)
発表を終え、ちらりと宮田教授の顔を見る。
教授は全く表情を変えずにモニターに映し出された検査画像を見ている。
宮田「...MRになった原因は?」
僕「原因は以前に心筋梗塞を起こしたためと思われます。」
MRになる原因は様々あるがその一つとして心筋梗塞後に起こるものがある。
心筋梗塞を起こすと、心臓の筋肉の一部が壊れるために、それを修復していく際に僧房弁の位置が悪くなり、MRを引き起こす事がある。
これは少し前に調べていたのでばっちり答えられた。
(よし!これでクリアかな。)
少し得意げな雰囲気を出したのも束の間だった。
宮田「...で何でこの術式なんだ?」
僕「?」
宮田「MVRを選択した理由は?それに弁を置換するのにどの弁を使うんだ?」
僕「??」
さっぱりわからない。
(術式?そんなもん手術する人間の決める事じゃないの?それに置換する弁なんて手術もしてない人間が分かるわけないやん...)
僕「…すいません。わかりません。」
宮田「はぁ...駄目だな、中森!あとで教えとけ!略語覚える前にしっかり勉強しとけ!」
薄っぺらいメッキは一瞬で剥がれ、
怠惰な自己満足と醜悪な虚栄心を見透かされカンファレンスは終了した。
皆が散り散りになり部屋を出ていく。
中森「…勉強してたん?」
僕「...すいません、していたつもりだったのですが…」
中森「どうせ、自分には関係ないとか思ってたんやろ?」
僕「...」
中森「術式も種類があって別に好みで決めてる訳ちゃうねん。それに交換する弁も物によって術後の経過が変わってくる。手術だけして終わりじゃない。先生やってることは学生のテスト勉強みたいなもんや。入局したつもりで研修せんと意味無いで。」
僕「...すいません。」
謝るしかなかった。
患者さんがどうなっていくか、何てことは自分にとって全く関係の無い事とどこかで思っていた。
別に手術がしたいわけではない、
別に今後ここで働くわけでもない、
どうせ2ヶ月したら次の科にいく、
根本にそんなネガティブな考えがある事を、
仕事に追われているという意識が否定していた。
【入局したつもりで研修する】
この言葉を胸に刻み、すぐに病院の図書館に向かい手術の確認をする。
中森先生の言うとおり、
術式が弁の状態等によって変わる事、置換する弁として機械弁や生体弁等種類があり、その後の経過が変わること、またそのリスクなど、少し調べるだけで必要な情報がどんどん出てくる。
(ここで頑張らないとな)
夜も更け図書館の閉館が告げられる頃、学生の面影は消えつつあった。
…そして手術当日となった。
一旦ここで終了させて頂きます。
最後まで読んで頂き有難うございました!