【雑記】血を吐いた!その時現場は。処置編 (最終編)
皆様お疲れ様です。
長く書かせて頂いてきたこの話もいよいよ最後になりました!
全ての事の始まりはこちらから。
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処置編の始まりはこちらから
【あらすじ】
吐血にてショック状態となり救急搬送されてきたヤ〇ザ屋さん。
止血処置が一旦成功するも、再出血が起きてしまう。
何とか再度止血を試みるも患者さんが目覚めてしまいパニックに…
患者「おおお!!!〇△×!!!!」
食道には管が入っているので具体的に何を喋っているのかはわからないが、大体は想像がつく。
患「おおお!これ外さんかい!!何しとんねん!!」(聞こえてくる母音で判断)
看「今処置中ですからね!!!動かないでくださいね!!!」
華奢な体のどこにそんなパワーがあるのだろうか。患者さんは動かない。
その間にもう一人の看護師さんが鎮静剤を投与する。
看「先生何CCいれますか?」
僕「酒も強いやろし始めから5ccいれて!!」
【鎮静剤】
種類は色々ありますが、前の病院ではドルミカムという薬を使ってました。
大体3cc(3mg)で効果あるのですが、お酒に強い人は5cc位使っても微妙な効果の時もあります。しかし、効き過ぎると呼吸が止まってしまうという怖い作用もあります。こんなカメラの処置中に息止まったらまさに悲劇です。
(5ccやとちょっと強すぎるかな…でもこんだけ暴れてるし止めるにはこれくらい入れなきゃ…...息止まらないでね。。)
不安を感じつつも、指示通りに入れてもらう。
少しの間押さえ込みに参加する。
ちょっと力が緩んでくる…よし!効いてきた!
すぐにカメラを取り止血処置に取り掛かる、そして挿入しようとした次の瞬間...
患「おおお!!!」
鎮静剤が効いてきたと皆が一瞬緩んだその隙を見逃さなかった。
カメラを手でつかみ引っこ抜き再度暴れだす。皆が再度押さえ込みにかかる...
…ビシャッッ!
僕(ん?ビシャッ??何か生暖かい...)
皆が患者さんを押さえながらこちらを見てる。
押さえるのに必死で忘れていた...再吐血である。
僕の上半身が真っ赤に染まっていた。
普通なら下に血が落ちる程度なのだが今回は違った...
誤嚥しないように食道に筒を挿入しているため水鉄砲のように勢いよく血が噴き出してくる。
胃の中に溜まっている血はまだまだあるだろう。
筒の出口はまだこちらを向いている...
僕「あかん!口誰もいない方に向けて!!」
【血液の怖さ】
入れ墨を入れている方はC型肝炎にかかっている可能性が高くなります。
また他にもB型肝炎、HIVウイルス感染等が入れ墨の際に感染している可能性もあります。B型肝炎に対しては医療従事者はワクチンを打っているのですが、C型肝炎、HIVウイルスに関してはワクチンはなく、血液を介して感染する可能性があります。
なので基本血液に触れないようにガウンを着てゴーグルをはめて処置を行います。
とっさに看護師さんが上を向ける。
本来なら上を向いて吐くと誤嚥してしまうのでNGだが、今回は誤嚥する心配もない。しかしそこで吐くと血の雨が降る...
僕「あかん!!皆にかかる!!」
咄嗟に少し斜めに向けた時点で第二弾の血が噴き出てくる。
勢いよく出る血のビームが狭い内視鏡室を紅に染めていく。
僕(角度を変えてみると、腕の竜が炎を吐いているようにも見えるなぁ...)
血にまみれた眼鏡を拭きながら、そんなことを考え出す。
現実逃避にも聞こえるかもしれないが、これはようやく落ち着いてきた証拠である。
そんな中ようやく鎮静剤が効いてくる。
おとなしくなった患者。モニターの音はさっきよりも早くなった心拍を表示している。
血圧は下がり状況は切迫してきている。
僕「完全ショック状態やね。もう輸血全開で入れながら一気に行こう!」
いつもならビビりまくっている気持ちはどこへやら。
アドレナリンが出すぎたのか、殻を破って成長したのか、怖さを感じなくなっていた。
先ほどよりもさらに集中力に磨きがかかる。
カメラを入れるとやはり血の海が待っていた。気にせず進む。
あの大暴れでも輪ゴムは外れていなかった。
僕(意外に輪ゴムってがっちり掛かってるもんなんや)
(モニターの音は少しゆっくりになってきたな、ショック落ち着いてきたかな。)
(首にかかった血がしたたってきた気がする...後でシャワー浴びな。)
出血に動じなくなったらこんなにも周りが見えるのかと少し驚く。
今までで一番のスピードで静脈瘤を吸引、輪ゴムを発射してもらう。
続いて最後の静脈瘤も難なく止める。
僕「OK!これで再出血してこなければいいけど」
...
...
奥の方から血は返ってこない。ついに成功だ!
僕「ふぅ…お疲れ様でした!」
看「お疲れ様でした!!」
止血剤を散布してカメラを抜去する。
改めて見渡すと血まみれの部屋に血まみれの格好の自分...
僕(ここで警察とか来たら捕まるやつやん)
とか思いながら血まみれのガウンとマスクを外し、アルコールのガーゼで簡単に首を拭く。
所見を書き終えたところで本人が目を覚ます。
使った鎮静剤の量にしては早すぎる。アルコール強い人には本当に効きが悪い。
妻を呼び入れ、真っ赤に染まった部屋を見せながら処置の凄惨さを語る。
そして本人と話す。
僕「お疲れ様でした!めちゃ血が出てましたけど何とか止まりましたよ!相当危なかったです!」
妻「あなた良かったねぇ!」
涙ぐむ妻。これで感動的な結末…を迎えるはずだった。
患「…!!」
僕・妻「?」
患「なんでやねん!」
僕・妻・看「???」
患「何で助けてん!俺は死んでもよかったんじゃ!余計なことすな!」
僕・妻・看「えぇ...」
元気になりいきり立つ患者さん。どうやら極度の病院嫌いらしい。
患「処置してもらったんはありがとうやけど、帰らせてもらうわ!!!」
僕「いや、あくまで出血を止めただけですので,,,これから入院して、絶食のまま経過診て、1週間後に残った静脈瘤の治療しないと...ってか今帰ってご飯食べたら下手すりゃ死にますよ!」
患「かまへん!!」
何度も説得する妻、頑として聞き入れない患者さん。
そうこうしているうちに立ち上がり歩き出す。
患「じゃあ帰るわ!」
もはや止める気力は残っていなかった。
事務長に連絡し治療費だけは払ってもらってねとお伝えした。
横を見ると看護師さんはICUに連絡し入院キャンセルの旨を伝えていた。
相変わらず仕事が早い。
看「疲れましたね...」
僕「そうだね...でも今日の止血で少しレベルアップした気がするわ...」
僕(きっと先輩方はこんな経験を一杯積んできたんだろうなぁ...)
少し大きくなった背中に哀愁を漂わせながら医局へ戻っていくのであった。
めちゃ長なりましたが何とかまとまりました!
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
…ちなみに第二話で手伝うと言っていた外科部長からはもちろん連絡はありませんでした(というより救急搬送のこと自体覚えてなかったみたいです(笑)(怒))