【雑記】優しい笑顔 その5
皆様お疲れ様です。
前回の続きを書いていきたいと思います。
前回の話はコチラから
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【あらすじ】
化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者さんの担当になった。
画像検査結果は癌性腹膜炎、もう治らない状態である事を確認した僕は病状説明に向かうのだった・・・
Aさんの病室へと向かう僕。その足取りは重い。
僕「失礼します。検査お疲れ様でした。」
A「いえいえ、検査どうでした?」
僕「レントゲン検査は良くなってきていました。イレウス管が良く効いている証拠です。とりあえず腸が詰まって破裂するなんて事は起きないと思います。」
A「破裂!?それは怖いですね(笑)この管はまだしばらく入れてなきゃ駄目ですよね?」
僕「…そうですね。抗生剤使ってますので、それが効いて便が出る位まで腸が動けば抜けるとは思います。どれくらいかかるかは…分かららないです。」
A「そうですよね。有難うございました。」
…言えない。
厳しい話を昨日今日あった僕がいきなり話せる訳がない。
まだ希望があるのだからいたずらに不安をあおるような説明はするべきではない。
今話さないのは仕方がない。
そんなもっともらしい言い訳が頭を駆け巡る。
…怖い。
僕らは2年間の研修医を経てようやく一人前の医師として認められる。
しかしそれは同時に主治医としての責任が生まれ始めると言う事でもある。
もちろん、覚悟はできている。3年目になってから、今までトラブルもなくそれなりに上手くやってきたつもりだ。
力及ばず亡くなってしまった方だっていた。これはいつも通りの日常だ。
それは分かっている…分かっているけど…怖い。
僕の話す言葉がこの人を、この家族をどれだけ傷つける事になるだろう。
それがこの仕事だ。そんな事は関係ない。事実を淡々と伝えればいい。
どうやって話せば、傷つかずに話せるのだろう。
そんな方法はない。今までだってそうしてきた、これからだって。
A「…生?先生?どうかしましたか?」
僕「あ、いえ。経過の説明もありますし一度家族さんにも話したほうがいいですね。週末家族さんこられますか?」
A「来れると思いますよ。先生大変だろうし僕のほうから連絡しときますね。」
僕「助かります。では金曜日の3時位で行けそうですか?」
A「わかりました。」
僕「ではよろしくお願いします。」
約束を取り付け病室を出る。
(こんな気持ちを悟られるわけにはいかない。)
そんな思いが少し足を早める。
詰所に戻った僕に看護師さんが心配そうにこちらを見ている。
看「どうでしたか?」
僕「とりあえずイレウスは良くなってきてるって話してきました。今後の事は経過見ながら話すしかないですかね…」
看「…分かりました。」
僕「また上の先生とも相談しときます。週末に家族さん呼んでるんで説明行いますね。」
大学病院では研修医-主治医-上級医の3人で患者さんを担当するのが基本です。
ですが、当時の化学療法班は患者さんの人数が多く、研修医が担当にならないケースも多々ありました。
また上級医は患者さんの多さに加えて外来、大学病院以外の病院へのヘルプなども行っており、方針が決定したら後はほぼ主治医が一人で診なければならない状態でした。
幸い今日は上司が外来やってる日だ。
そろそろ終わる時間だし、一度覗いてみようかな。
そうして、上司の下に急ぐのであった…
長くなりましたので一旦ここで終了します。
最後まで読んでいただき有難うございました!