【雑記】優しい笑顔 その7
皆様お疲れ様です。
前回の続きを書いていこうと思います。
前回の話はコチラから
【あらすじ】
化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
もう治らない状態である事を知った僕は今後の方針を上司と相談、いざ告知に向かう僕であったが、その前に同僚Sのいる部屋へと向かった。
S「お疲れさん。ケモ班はどんな感じ?」
僕「…中々シビアな感じやわ。」
ケモ班というのは化学療法班の通称である。
S「俺のとこも今大変やわ。昨日も吐血患者来てたし今日は内視鏡手術みたいやし、あと…」
Sは話し始めると止まらない。いつものことである。
たまに相槌を打ち適当に聞き流しながらパソコンを起動する。
S「…というわけやねん。んでな…」
僕「ほぅほぅ…ふぅん。へぇ…そうなんや。」
明日にはお互い全く覚えていないであろう会話(彼が話しているだけだが)が続く。
パソコンはすでに起動を終え、デスクトップの画面が表示されている。
S「…で、どうしたん?」
突如話が途切れ、Sが真顔でこちらを向いている。
Sとは学生時代に知り合いかれこれ10年になる。
苦楽を共にしてきた友はきっと部屋に入った時から気付いていたのだろう。
重い空気を緩和させるためにいつも通り話してくれていた事にこちらも気付く。
僕「まぁ特別な話ってわけじゃないんやけど…」
事の経緯を話し始める。
Sは先ほどとは打って変わって、黙って話を聞いてくれている。
僕「…ということで、なんて話していいものか…」
S「まぁ、ケモ班やから避けて通れん道よなぁ…でも若すぎるな。」
僕「せやねん。かなりきついわぁ」
S「うーん…でも事実を伝えないわけにもいかんし、サンドスタチンもあるんやからそれで少し希望を持ってもらえるんちゃう?」
僕「そうよなぁ…それしかないよなぁ。」
S「まぁ出来る事を出来るだけやるしかないやろ。足らん部分は上が何とかしてくれるやろ。」
僕「…せやな。ありがとう。」
一通り話し終えた僕はついでにニュースサイトを見ながら休憩する。
…プシュッ!
ふいに缶を開ける音がする。
Sが缶コーヒーを持ち込んでいた。
S「もう一本あるけど飲む?」
僕「ん?見つかったらここ出禁になるで(笑)」
S「まぁ元々出入り禁止やからな(笑)」
僕「確かに(笑)」
僕「…ありがとう。」
さりげない気遣いに感謝しながら、しばし憩いの時を過ごす。
僕「…そろそろ行くわ。」
S「おーお疲れさん~。」
彼はいつまで休憩しているのだろう?
まぁおかげでリフレッシュ出来た。
【出来る事を出来るだけやる】
そう、新人が一人で背負いこんでもたかが知れてる。
ならばやれるだけやって後は頼ればいいんだ。
膨れ上がった責任感はいつの間にかそんな当たり前の事まで見えなくさせていた。
患者さんにとっては僕らの言葉が全てだ。
病気については色々とネットで情報を調べたり、人から話を聞いたりすることはできるが、たとえ同じ病気だとしても、全く同じ病状なんてものはない。
僕らがちゃんと一人一人に病状を、治療法を、今後起こり得る事を、
わかりやすく、そして相手を労わりながら言葉にする。
そこを軽んじる気持ちは毛頭ない。
しかし、出来ない事は出来ない。
たかだか働いて2年ちょっとの僕が患者さん、家族の心を完全に救う言葉をかけられるのならば、多分この世界は簡単だ。
自分で全部しようと思う事自体おこがましい。
誠心誠意向き合って話すしかない。
僕「…よし。」
N病棟へ向かう。もうその顔に迷いはなかった…
長くなりましたので一旦終わります。
最後まで読んでいただき有難うございました!