【雑記】優しい笑顔 その9
皆様お疲れ様です。
前回の続きを書いていこうと思います。
前回の話はコチラから
【あらすじ】
化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
もう治らない状態である事を初めAさんに伝える事が出来なかった僕は上司、同僚との相談を経て自信を取り戻す。そしてAさんへの病状説明が始まった。
【読む前に...】
少しシリアスな話になりますので予めご了承ください。
あとAさんの気持ちを推察する場面がありますが、読みやすくするため敬語は省略させて頂いております。失礼な感じに見えてしまったら申し訳ありません。
僕「失礼します。」
A「先生お疲れ様です。どうかしましたか?」
僕「すいません、週末にご家族と一緒に話させて頂く事は変わりないのですが...」
僕「先ほど上司とも画像検査やデータのチェック行いまして、今わかる範囲で現状をお伝えしといた方がいいと思いお呼び立てしました。」
A「そうですか。わざわざ話に行って頂いたんですね、ありがとうございます。」
僕「いえ...」
少し戸惑いの残る手でパソコンに入っている画像データを開く。
僕「では...説明していきますね。」
A「お願いします。」
僕「まずこのCT画像ですが、今回腸が詰まっていたためこのように腸管が非常に拡張しています。」
A「はい。それでこの管を入れて頂いたんですよね。」
僕「その通りです、今入れているイレウス管という管から詰まっている便汁が吸引されて状態としては良くなってきています。」
A「はい。ありがとうございます。...大体いつ頃抜けるかはわかりますか?」
僕「...順を追って説明させて頂きますが...かなり厳しい話になります。」
A「…そうですか。」
…
A「お願いします」
Aさんの顔を横目で覗く。
始め顔を曇らせたが、すぐに表情を戻し少しはにかみながらこちらを見ている。
今までもきっと何度も厳しい話を聞いてきているのだろう。
こんな時ですらこちらに嫌な顔は見せまいと気を遣ってくれているように感じた。
少しの沈黙が流れ、僕は再び話し始めた。
僕「まず、今回の腸閉塞の原因ですが...癌性腹膜炎という状態のため起こったと思われます。」
A「癌性腹膜炎…ですか?」
僕「はい、これは癌細胞がお腹の中に散らばってしまい炎症を起こしている状態です。このため腸が動かなくなってしまったと考えています。」
A「そうですか。…悪くなっているんですね。…ということは抗癌剤が効かなくなってしまったんですね。」
今まで何度も抗癌剤を変更しているAさんはすぐに現状を理解していた。
【抗癌剤について】
抗癌剤は使用中に定期的に検査を行い、腫瘍の大きさや血液検査などの情報から効果判定を行います。それにより効果なしと判定されたら次の抗癌剤へと変更していきます。(1st line、2nd lineなどと呼んでいます)
大腸癌に対しては当時3rd lineまでしかありませんでした。
現在は5th lineまであります。(かなり多彩に分かれており病状によって使い方は変わります、状況によっては3rd,4th lineまでの使用に止まる場合もあります。)
A「…あと、どれくらい生きれますか?」
首筋から頭のてっぺんにかけて衝撃が走る。
覚悟はしていたが、まさかいきなり聞かれるとは思っていなかった。
現在使用している抗癌剤が最後だと分かっているAさんはすぐに切り替えていた。
僕「...そ、それは人によるので分かりません。数週間の事もあれば、数か月、それ以上となる事もあります。」
動揺を何とか隠しながら、核心の部分を伝える。
しかし、上司の見立てをそのまま伝える事は出来なかった。
…数か月、それ以上?そんな訳がない...
分かっている。分かってはいるが、これが精一杯だった...
A「...数週間の事もあるんですね。」
A「…」
Aさんはうつむきながら考え込んでいる。
しばしの沈黙が流れる。
不意にAさんが顔を上げ話し始めた。
A「実は…...」
僕は言葉を失った。
長くなりましたので一旦ここで終了します。
最後まで読んで頂きありがとうござました!