【研修医時代】心臓血管外科編 その4
皆様お疲れ様です。
前回の続きを書いていこうと思います。
前回の話はコチラから
【あらすじ】
胸部外科での研修が始まり、右も左もわからないまま病棟業務に奔走する僕。
あっという間に2週間が過ぎていった。
中森先生の後ろを追っかけながら2週間が過ぎた。
病棟への指示の出し方や、カルテの書き方等一通りの業務はこなせるようになり、また鬼門であったルートキープもそれなりに出来るようになっていた。
中森「先生、Nさんの点滴変更するから指示出しに行っといて。あ、あとMさんの採血、もう一回やっといた方がいいからすまんけど頼むわ。」
看護師「先生、ルート漏れたので取り直しに来ていただいていいですか?あと指示いつになったら出るんですか?」
出来るようになったら今度は矢継ぎ早に電話が鳴る。
元々電話嫌いの僕はピッチが鳴るたびに毎回ドキッとしていたが、もちろんそんな事は誰も知る由がなく...
ご飯中だろうがトイレに入ってようが兎に角なりまくるピッチにうんざりしながらも、鳴ること自体に何も感じなくなっていた。
(...慣れってすごいな。)
医療とは全く関係のない苦手を克服したことに感謝すると、
煩わしいピッチの存在にも少し親近感を覚えた。
どんどん積もっていく仕事を一つ一つこなし、片付け終えた頃に再びピッチが鳴った。
中森「先生、今から医局来れる?」
僕「…? 了解しました!すぐ行きます!」
いきなりの呼び出しに少し戸惑いながらも、急いで足を進めた。
僕「失礼します。」
医局のドアを開く、もう初めの頃のような重さを感じる事はない。
中森「おー、早いね。明後日手術やし先生カンファレンスの発表やってみ。」
僕「!!」
この2週間の間に2回ほどカンファレンスがあったが正直何を言っているのかはあまり分かっておらず、胸部外科での研修というより病棟雑務のプロを目指しているかのような状態であった。
(そうか…そりゃどっかでやらなきゃいかんよな…)
色々な仕事(雑務)が出来るようになっていく事にある種の達成感を覚えていた僕は、患者さんの病状の把握、治療方針の決定等、本来の医者としての業務が出来ていない事は見て見ぬふりをしていた。
(どうせ手術なんだから研修医に出る幕はない。)
(病状って言ったって血液検査データを追いかけとけばどうってことはない。)
そんな甘い気持ちを中森先生は見抜いていた。
僕「...は、はい。Mさんですよね。やってみます。」
中森「出来る?ってまぁやってもらうけど。」
中森先生は手取り足取り教えてくれる人ではない。
突き落として這い上がらせる、いわば獅子タイプの先生だ。
今ある知識で勝負するしかない…
カンファレンスまではあと2時間...
急いで病棟へ戻る。
僕「すいませんカンファあるんでカルテ借りていきます!」
看護「看護カルテは置いていって下さいね。」
看護師さん用のカルテも一緒にファイリングされているため、一度医師用のカルテをファイルから取り出し、ひもで括って持っていくという煩わしい事をしなければならない。
(何で電子カルテじゃないねん…)
普段は気にも留めていないのに、自分が急いでいる時だけ文句を言いたくなるのは悪い癖だ。
決していいとは言えない手際で急いで準備を済ませ医局に向かった。
医局についてまずは病態を把握しにかかる。(本来なら分かってて当たり前なのだが…)
Mさんは60代の男性で【僧房弁閉鎖不全症】という病気だ。
【僧房弁閉鎖不全症】
心臓は左心房、左心室、右心房、右心室と4つの部屋に分かれています。
心房→心室へと血液が流れ、右心室は肺に、左心室は全身に血液を送る役割をしています。
血液の流れを書くと、
右心房→右心室→肺→左心房→左心室→全身(→右心房)といった流れになります。
各部屋は弁という扉で仕切られていて、これにより血液の逆流を防いでいます。
僧房弁は左心房と左心室に間にある扉です。
閉鎖不全症というのは、扉の立て付けが悪くなった状態で、きっちりと仕切る事が出来なくなってしまいます。
なので僧房弁閉鎖不全症は、左心室から全身に血液を送る際に、一部の血流が左心房に逆流してしまう病気です。
これを放置すると心臓に負荷がかかり徐々に心機能が低下し心不全となってしまいます。
現在の心機能や行う予定の術式、血液検査結果などを頭に叩き込み、考えられる準備は万全となった。
出来る事を全て行うと、自信が湧く。
(これは意外とうまくいくんじゃないかな…)
少し余裕の表情で教授の到着を待つ。
中森先生は少し怪訝そうな顔でこちらを見ているが、気づかないふりをした。
ガチャ。
宮田「さぁカンファレンス始めようか!」
いつもの通り、 いきなり号令がかかる。
僕「よろしくお願いします!」
宮田「おぅ、研修医か!じゃあよろしく!」
…そしてカンファレンスが始まった。
...2週間というちっぽけな経験とともに。
一旦ここで終了させて頂きます。
最後まで読んで頂きありがとうございました!