消化器内科医のひまつぶし

医療関係を中心に?日々起こった事、思った事書いていこうかと思います。

【研修医時代】心臓血管外科編 その3

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いていこうと思います。

 

前回の話はコチラから 

www.dr-susie.com

 

【あらすじ】

ついに始まった研修医生活。はじめは胸部外科からのスタートとなった。

上級医の中森Drとペアとなり初の病棟へ向かうのだった。

 

 

【大学病院の担当】

大学病院では基本複数人で患者さんを診ます。

大体、研修医-主治医-指導医の3人体制であることが多いです。

これを屋根瓦方式と呼んだりします。

研修医と主治医はほぼ固定されていることが多く、他の上級医の先生とは普段あまり接点がない事も多々あります。

指導医は疾患によって変わることがありますが、基本主治医がメインとなって動くようになっています。

研修医はそれにくっつき仕事を学んだり、患者さんの診察を行い報告したりしながら研鑽を積んでいきます。

今回は研修医が僕で、主治医が中森先生、指導医は宮田教授の場合と他の手術を行う先生の場合がありました。

 

 

病棟へ向かう二人。

そこで中森先生のピッチが鳴った。

 

中森「はい、ん?今から行くよー。あ、研修医も連れて行くわ。」

 

話し方はのんびりしているが相変わらず眼が笑っていない。

 

 

どうやら病棟からの催促の電話だったようだ。

少し歩く速さが上がる。

 

 

急ぎ足で病棟に着いた僕は初めが肝心とばかりに挨拶をした。

僕「今日からお世話になります辻と申します。よろしくお願いします!」

 

...

 

...

 

全く反応はなかった。。

 

 

看護「はぁ。よろしく。」

 

数人がかわいそうに思ってくれたのか、ちらりとこちらを見て反応してくれた。

 

 

顔を少し赤らめながら詰所に入ると、少し嬉しそうな顔で中森先生が話しかける。

 

中森「まぁこの時間みんな忙しいしな。研修医の扱いなんてこんなもんよ。」

 

 

また一つ先行きに不安を抱えながらカルテ棚を見る。

 

とは言っても何からすればいいか全くわからず取り敢えず知ってる患者さんのカルテを探し出した。

先ほどカンファレンスで出ていた患者さんのカルテだ。

 

僕「そういえばさっきのカンファの患者さんのMVRって何ですか?」

 

中森「...」

先ほどの嬉しそうな顔はどこへやら。

こちらを振り返ることなくカルテに指示を書き続け、全く反応する気配がない。

 

 

(まずい…これはいかんな...)

 

 

この感覚は以前に味わったことがある。

それは学生の時に病棟での実習があった時だった。

 

 

5-6年生の時に行う全科を周る病棟実習とは別に、

4年生の時になぜか看護師さんにくっついて数日実習するといったものがあった。

 

右も左もわからず、しかも自分の後輩になるわけでもないヘラヘラした僕らに

過酷な勤務中の看護師さんが対応するとあって、それはもはや罰ゲームであった。

 

(何も期待していない、邪魔をするな、黙ってみとけ...)

 

そんな心の声が聞こえてくるような、無表情の顔に冷たい眼。

 

数日であったが、申し訳なさ、悔しさ、恐怖、いろんな負の感情が混ざり合い、

しばらくは病院に出入りする事すらしんどかった時期があった。

 

 

(これが続くとなるともたないな...)

 

 

研修初日とあってどこかまだ物見遊山な気持ちでいた自分を戒める。

昨日までは学生であったが、今日からは患者さんと接していく一人の医師だ。

 

 

研修医にまだ責任はかからないから大丈夫、なんて気持ちでいたらあっという間に2年が過ぎてしまう。

そうなれば、何もできない医者の出来上がりだ。

 

今となったらこのような事が言えるが、当時の僕は漠然とした恐怖感に包まれていた。

 

 

しばらく黙って、中森先生の行動を観察する。

指示の出し方、普段の病棟業務の流れ、カルテの書き方、果ては採血スピッツの置いてある位置までとにかく視野を広げて観察していこう。

 

そう思い観察し始めてしばらくたった頃、

 

 

看護師「先生、ルートキープお願いします。出来ますよね?」

 

【点滴】

点滴を持続的に行うときに、普通の針を刺したままでは動くと危険なので、

プラスチックの針を血管内に留置します。

これをルートキープと呼んでいます。

市中病院では看護師さんが行ってくれるのですが、大学病院では主に研修医の仕事でした(最近は変わってきています)

方法としては金属製の針(内筒)にプラスチックの針(外筒)を被せて、まず内筒で血管を刺し、血液が返ってきたところで外筒を血管内に進めていき留置します。

血管の太さ、走行によって難易度が大幅に変わってきますので、まずはいい血管を探す事が重要です。

 

僕「...」

働き始めて数時間の僕にもちろん出来る訳はない。

 

僕「すいません、先生...」

先ほどの気まずさの中、勇気を出して中森先生に話しかける。

 

中森「おう、流石に出来へんわな。また研修医同志で練習しとけよ。」

そこは意外にあっさりと快諾し、颯爽と患者のもとへ向かう先生。

 

その背中を必死で追いかける僕。 

 

ため息混じりで僕の背中を見る看護師さん。

 

 

まずは信頼を勝ち取ることが何よりも大事だと肌で感じながら、

あっという間に2週間が過ぎていった。

 

 

一旦ここで終了させて頂きます。

最後まで読んで頂きありがとうございました!